『海原』No.63(2024/11/1発行)誌面より
第6回 海原金子兜太賞
【本賞】
船越みよ「冬の想」
【奨励賞】
松本千花「鬼灯が足りない」
鱸久子「ふるさと・は」
第6回「海原金子兜太賞」は、応募作品37編の中から、上記三作品の授賞が決まった。
応募作品数は、本年も前年より少なかったが、どの作品も大変充実したものであった。本年も世界の紛争はとどまることなく、さらに国内は地震や風水害の被害が広がっている。30句のテーマも内容も多様化し、表現方法にもさまざまな工夫が見られる結果となった。詳細は、選考座談会をご覧いただきたい。
※選考座談会および選考委員の感想は『海原』本誌でご覧ください。
◆選考委員が推薦する5作品◆
【本賞】
船越みよ「冬の想」
粉雪の木立遠き日のアカペラ
吹雪見ており縮緬雑魚の目の渇き
雪踏んで恋の一句の韻を踏む
栗鼠のようおやつを隠す冬の黙
人等去り二人にひりひりする寒さ
湯たんぽの「ゆ」の字が二つ母二人
手さぐりの鞄の奥の冬の虹
冬日たっぷり余生の今におぼれたい
電柱に句作にごつん時雨傘
姉の背の圧迫骨折遠い雪崩
くちびるに湿りを色をポインセチア
冬木の芽印象操作の顔ばかり
葉牡丹や音叉のように耳打ちす
冬木より淋しき電飾産土は
股引と父のがむしゃら子だくさん
骨揚げの無機質な箸冬もみじ
冬桜呼ばれて妻に戻りけり
筋肉疲労水に抱かれて枯はちす
人形の首のぐらつく開戦日
戦時飛行場跡一面枯すすき
文脈の飛んで鯨の群れ遥か
頸たたむ白鳥湖心という孤独
詩想とぎれて一目散の野のうさぎ
玄米粥馬の咀嚼のちゃんちゃんこ
ポカ増えてポーカーフェイス着ぶくれて
白濁の記憶のふたり風呂吹ふう
葱刻む身に一本の追慕の矢
肌年齢ぎょぎょっと屋根の雪えくぼ
羽後大雪石のつぶやきして父よ
終の地や迷走会議のよう吹雪
【奨励賞】
松本千花「鬼灯が足りない」
若葉風体操服のまま帰る
額寄せながす笹舟夏はじめ
落とされて目玉の赤い青蛙
少年の羽音サイダーの鼓動
青蜥蜴の匂いだったか転倒後
蓮の風午後はやさしくはぐらかす
枇杷の実のずかずか落ちる境界線
さよならの背中が笑う梅雨茸
わがままな鏡の映すアマリリス
多数決が寝そべっている木下闇
ごみ包むための夕刊栗の花
しがらみと言い諦めと言い蟻の列
しょうがない豪雨の夜の冷奴
家事分担計画あぢさゐ化
愛したり脅したりして昼寝
シュレッダー素気無い音の涼しさよ
いつのまに平らな跣足歩け歩け
夾竹桃地獄耳だけよく育つ
罌粟の花淡く愚かにすれちがう
夢の掟蛍の部屋はのぞかない
「治療はご縁です」掛巣鳴く
ローリングストック鬼灯が足りない
寄り添うこと月の舟から落ちぬこと
竹の春シニアはスロースクワット
ちちろ鳴く実験室の磨硝子
秋蝶のように見送る回送列車
居待月ずっと味方でいる覚悟
紅蓮きょうはマリーと呼んでみる
若葉風エアーなわとび七十回
いそいそと蟻居り侍り今が旬
【奨励賞】
鱸久子「ふるさと・は」
月山山麓北限の柿捥ぎ初むる
月山よ北限の柿庄内柿
家の柿八十五本俺が捥ぐ
柿愛しいずめ児愛し月山よ
おばこも捥ぐ北限の柿初々し
父捥ぎ母選果へ根つめる
たった五分雹奴叩きし柿無惨
雪原へ鋏を鳴らし柿剪定
手探りで育てし柿よ松ヶ丘
月山の山懐に柿と居る
波の花空へ投網を打つように
卯波寄す荒磯や竿を納めける
浜昼顔単線ホームへ咲く二輪
黙ったまま浜昼顔は消えました
県境の駅舎の隅の小座布団
県境越える無人車輌の秋灯し
蝦夷あじさい半こ手綱の目のやさし
清水一献半こ手綱を解く伯母へ
薄明のお花畑をお鈴來る
月山のお花畑と神々と
滝行クリア女性行者の清々し
木道右へ尾瀬河骨へ逢いに行く
尾瀬河骨の浄土地塘は深く青
家の庭へ螢と姪の声密か
木登り熊甘柿全部食うて去る
一度ぐらいは食らうてやると蝗追う
老鶯頑と生きるよすがの弥陀ヶ原
お花畑へわたしのひと日委ねける
弥陀ヶ原山椒魚よ年いくつ
月山よお花畑よふるさとは
◆全応募作品から選考委員が選んだ推薦15句
〈これまで推薦10句を選んでいたが、推薦したい句が多数あるという選考委員からの要望に応えて、今回は15句を選ぶことになった。なお、選考委員が推した五作品以外から選ぶことを基本としたが、一部その限りではないことをお断りしておきたい〉
安西篤
フェルメールの青冴え冴えと血のえぐみ 2「令和うふうふ草枕」
たらようの葉よわたくしのかげろう日記 3「わたくしのかげろう日記」
「寅次郎」といふ幼犬の鈴の声 6「歪つな真珠」
とびからすけものも歌うイヨマンテ 7「共生の島」
多数決が寝そべっている木下闇 14「鬼灯が足りない」
遺影見て遺影に見られメロン食う 21「見えぬもの」
ブルームーンという薔薇あいまいな時間 22「少しはみ出す」
銀杏黄落子からのイエローカードあり 23「イエローカード」
詩は時に銃弾となり星狙う 25「長き塀」
能登や能登まだまだ置きざりの蕨 27「共同売店」
父ちゃん母ちゃん背高泡立草図鑑 28「家族の時間」
人間に乗り継ぎの時間蝉生まる 32「縄文海進期」
自販機のボタンまたたく夕端居 33「働くひと」
わが渇く未生のことば踏みまどう 34「『憶』へ、『黒い星』へ」
父捥ぎ母選果へ根つめる 37「ふるさと・は」
武田伸一
人の死を囁きあひて夕花野 4「飴色」
木耳のはびこる母の死角かな 5「うつつ草子」
乾きし薔薇別の生き方してもいい 8「後ろ歩き」
とことん梅雨ですどぶさらいの老いです 11「葡萄に種」
冬日たっぷり余生の今におぼれたい 12「冬の想」
憲法記念日家中の窓開ける 13「光へ」
てのひらの重さにのせて蝉の殻 17「ひふ」
桜桃忌紙ナプキンに薔薇の柄 18「四万六千日」
ガラス瓶に作る銀河の濁らずに 22「少しはみ出す」
銀杏黄落子からのイエローカードあり 23「イエローカード」
麻ズボン失くした脚のあるように 25「長き塀」
夕焼の真正面で飯を炊く 27「共同売店」
「右向け右」少年兵は跣足だった 30「ひとりがいっぱい」
大原テルカズきりぎしは夜に触れ 34「『憶』へ、『黒い星』へ」
駅前の菓子屋のベンチ蝉の殻 35「青春の嘘」
田中亜美
ピンクオパール黙秘したのは春の宵 1「春日記」
回想は通り雨なり冬すみれ 3「わたくしのかげろう日記」
真円をもとめることなく未草 6「歪つな真珠」
夏の夜の点滴のよう鹿鹿鹿 7「共生の島」
ちから要るだろう噴水立ち上がる 8「後ろ歩き」
八月やにんげんがつくりしひかり 13「光へ」
封印の胸に宿りぬ冬の蝶 15「がんもどき」
白桔梗すこし明るい覚悟もち 21「見えぬもの」
ブルームーンという薔薇あいまいな時間 22「少しはみ出す」
蟬生まる夜明けドローンたち静か 25「長き塀」
二人称単数ふたり衣更 28「家族の時間」
二百十日雲飛ぶ能登の千枚田 29「能登炎暑」
大原テルカズきりぎしは夜に触れ 34「『憶』へ、『黒い星』へ」
龍神の思慕残りたる夏の湖 35「青春の嘘」
浴場のタイルの目地も春めいて 36「日常」
遠山郁好
意地張りあふ馬琴北斎弓張月 2「令和うふうふ草枕」
草かげろうどうしようもない渇き 3「わたくしのかげろう日記」
目隠しをされてしばらく秋のこゑ 4「飴色」
肩書はスリープトレーナー梅雨茸 5「うつつ草子」
木の国の木の芽しくしく愚にありて 7「共生の島」
死ぬほどの悔恨込めて夏の影 9「餓えた家族」
音を喰む雪に目蓋の重さかな 10「囮天弓」
優し気な蛇に囲まれ睡魔くる 18「四万六千日」
背にシャツの糊痛いほど桜桃忌 20「ぶきっちょな手」
梅雨寒や家裁の廊下に揃える脚 21「見えぬもの」
ほほえみみちすうくろかみくうかんかがみのなか 24「?!」
人差し指ひと刺さぬ指夏野昏れ 25「長き塀」
ふと肩を抱かれて涅槃西風になる 28「家族の時間」
尺取りのリハビリはいつも全力 31「抽象画になる」
見えざるものへ陽炎の老いかすか 34 「『憶』へ、『黒い星』へ」
堀之内長一
冴返る薬のような朝日飲む 3「わたくしのかげろう日記」
白桔梗なんとはなしの精進落し 6「歪つな真珠」
販売機 昔に降った雨を買う 10「囮天弓」
とことん梅雨ですどぶさらいの老いです 11「葡萄に種」
柿たわわこの世とつながるため握手 13「光へ」
遠く海鳴りきっと鯨の幻肢痛 17「ひふ」
終戦日遺書に押されし検閲印 18「四万六千日」
永遠に歯を磨く君星祭 22「少しはみ出す」
朝露や人をモニターせし猫に 23「イエローカード」
くたびれた画鋲が落ちてより真夏 27「共同売店」
老鴬のしきりに鳴くや能登山中 29「能登炎暑」
抽象画になる老いへの夏鏡 31「抽象画になる」
月曜のたびに孵化してクールビズ 33「働くひと」
がごぞくごきごきごはいごん
雅語俗語季語綺語俳言しゃぼん玉 34「『憶』へ、『黒い星』へ」
一瞬の無言劇あり盆支度 35「青春の嘘」
宮崎斗士
母涼しちひさなこゑのあつまれば 4「飴色」
羅の老女凜としハシビロコウ 6「歪つな真珠」
愚痴という換気ありけり揚羽蝶 8「後ろ歩き」
白玉やそちらを向くはOKってこと 11「葡萄に種」
寄り添うこと月の舟から落ちぬこと 14「鬼灯が足りない」
小春日の木になりたがる駝鳥たち 20「ぶきっちょな手」
透明な子といわれ見ている梅雨の月 21「見えぬもの」
新入生取説付の焼き立てパン 23「イエローカード」
古竹踏むパキンと渇くわが躰 25「長き塀」
平和大通り肉片のごと梯梧散る 26「雨蛍」
瓶底の夏を手に提げ父である 28「家族の時間」
攫うにはじゅうぶん赤い小鳥だわ 30「ひとりがいっぱい」
薄荷咲くゆっくりだからついていく 32「縄文海進期」
絵日記の夏空捨てたわけじゃない 35「青春の嘘」
今日だけの地図を描いて竜天に 36「日常」
柳生正名
おままごと今日の蜆は笑っちょった 1「春日記」
うふうふうふ虫宇宙だね草枕 2「令和うふうふ草枕」
三叉のふふみほつほつ土の息 3「わたくしのかげろう日記」
さっきまで弟だった月見草 5「うつつ草子」
木の国の木の芽しくしく愚にありて 7「共生の島」
二百字詰めにはづきと書けば水の音 11「葡萄に種」
夫の留守宙から蛇が降って来し 18「四万六千日」
小春日の木になりたがる駝鳥たち 20「ぶきっちょな手」
金魚にげて金魚玉となる地球 21「見えぬもの」
母といてこれからのこと蚊遣り豚 28「家族の時間」
夫の手術へ十の署名真夜の夏 31「抽象画になる」
薄荷咲くゆっくりだからついていく 32「縄文海進期」
こどもの日仮面ライダー殴り合ふ 33「働くひと」
ささりさりさりさりさららささりさり 34「『憶』へ、『黒い星』へ」
冴え返る背中に当たる聴診器 36「日常」
◆候補になった14作品の冒頭五句〈受賞作を除く〉
4 飴色 小西瞬夏
漆黒や八月の八塗り潰し
刻々と空蝉乾きゆく真昼
黒南風や墳墓息づく草の中
虹消えて母残りたる厨かな
指に泥つけて戻りし魂祭
5 うつつ草子 三好つや子
ポケットに般若心経春落葉
動物園って箱庭なんだ柳絮飛ぶ
豆の花見えないものの寝息あり
正論と異論のはざま蘖る
鳴子百合ふいに大人を踏み外す
7 共生の島 十河宣洋
とびからすけものも歌うイヨマンテ
草若葉獣も人も加齢して
足跡ゆうゆう熊は酔い覚めのよう
梟が聴く熊の寝息と雪解風
冬眠の熊念仏のように風を聴く
13 光へ 小林育子
蜜蜂の軌跡まぶしく朝ごはん
雲に雲ミサイルのきらりはおぼろ
天泣の青田頬に光の粒
薫風や抜かれっぱなしの通勤自転車
鮫光る本音のみこむ哀しい癖
15 がんもどき 木村寛伸
油照り不穏メールの着地点
無造作に癌を告りし日焼の娘
炎昼の胸に刺されし五寸釘
見初められ癌の棲家となり溽暑
癌よ癌父は許さじ毛虫焼く
16 その時セイジ・オザワ 大髙宏允
かいやぐらふとメケメケを口遊む
船底の春のリズムよエンジン音
ラ・マルセイエーズの洗礼春疾風
満天春星天使に逢えそうだ
若駒の風切る気分一本道
17 ひふ 望月士郎
一頭の蝶の越えゆく象の昼
空青く肉を縛って凧の糸
かさぶたにかすかな痒み雛納
海市消え双子のそっと手を離す
あっちの傷こっちの傷や夕蛍
19 夕焼座 佐竹佐介
一弾を明日に向つて撃て夕焼
お熱いのがお好きとあらば夕焼を
海夕焼片方浮かぶ赤い靴
欲望という名の電車街夕焼
夕焼野や中国女連れ回す
20 ぶきっちょな手 和緒玲子
元カレに遭ふや雨月の牛丼屋
窓が欲し銀漢渡す大きさの
言ひ張つて檸檬一匙分の悔い
小春日の木になりたがる駝鳥たち
遠火事や頓服薬のほの甘し
22 少しはみ出す 大池美木
窓ガラスに残る朧の遠ざかる
花ミモザビートに遅れて老いていく
凌霄や世界から少しはみ出す
いつか狂うお花畑のハッピネス
僕と来るかい日焼のあと淡く
27 共同売店 河西志帆
水を打つ水の裏から見える町
麦こがしずんずん昏くなる神社
くたびれた画鋲が落ちてより真夏
共同売店ご先祖様が常連
羅やドアを開ければ点く電気
30 ひとりがいっぱい ナカムラ薫
ゴジラ死すすぐそばの遠い時間
炎天を耳さとき蝶一頭
和解して鳥の握手のよう五月
ちとのろいのですが夏の蝿である
帽子屋を漂うおらんだししがしら
32 縄文海進期 小松敦
花辛夷羽ばたくように物語る
薇の少年少女展開し
風船の夢は南方郵便機
牧開ただ微笑みを遷す人
ピアノ弾くようにミシンをクロッカス
35 青春の嘘 佐藤詠子
青春の嘘が泉になってきた
ふるさとに目を合わさない百合の花
帰る家帰らない家立葵
蝉しぐれ空家だらけを埋めている
一瞬の無言劇あり盆支度
◆応募作品の冒頭三句〈受賞作・候補作を除く〉
1 春日記 伊藤清雄
ピンクオパール黙秘したのは春の宵
届物は梨の礫よつばくらめ
おままごと今日の蜆は笑っちょった
2 令和うふうふ草枕 藤好良
三界をカンバス提げて花カンナ
虫入りの琥珀の鼓動月宮殿
秩父路をアサギマダラの渡りかな
3 わたくしのかげろう日記 黒岡洋子
たらようの葉よわたくしのかげろう日記
遠雪崩藜杖そろと影を踏む
待つ人がいるようすずろ風花す
6 歪つな真珠 石橋いろり
息絶えし子の寝息きく母子草
虚と実の間に迷う夏の蝶
「寅次郎」といふ幼犬の鈴の声
8 後ろ歩き 三浦静佳
夏の杉父の部厚き声がする
ほつほつと渓蓀どんより気象病
図書館を別荘と言う麦の秋
9 餓えた家族 豊原清明
ほしぼしや家帰りたる朱夏脱腸
父待つや入院くすり病大暑
蝉時雨朽ちたるままの頭の中
10 囮天弓 樋口純郎
冬薔薇の生命を借りて人と会う
短日や一枚だけの葉の震え
鬱屈の全て冬の煙り一条
11 葡萄に種 楠井収
腹の中ひとごとのよう花吹雪
好きになりいらちとなって庭に梅
桜満開いつ散るかとても待てない
18 四万六千日 工藤篁子
山に居て遠嶺を拝む初日の出
千年の香解きゆく初桜
名を持たぬ一樹のくいぜひこばゆる
21 見えぬもの 藤田敦子
はつなつへ漕ぐ海原に座すごとく
海のはじまり夏のはじまり父の背
青空に転写するごと鴎来る
23 イエローカード 岡田奈々
涅槃会や腕に眠る子の仏
春眠や世の一切を手放して
新入生取説付の焼き立てパン
24 ?! 阿久沢長道
妄想のスピン磁気回転比夢のつぶやき
交差するパルスの音階エレキ
ふーっととばすてのひらのきぼうのみらい
25 長き塀 桂凜火
すべりひゆ灰の雨降るいっせいに
木苺熟す塀の向こうは戦なり
黒けむり上がる夏空嘔吐のよう
26 雨蛍 石川まゆみ
夕焼の中区が変わる重機生え
平和大通り肉片のごと梯梧散る
笑うから知人かとロビーの案山子
28 家族の時間 田中信克
ポンコツの笑顔がひとつ豆の花
ふと肩を抱かれて涅槃西風になる
やがてあなたは半分自由はだれ雪
29 能登炎暑 赤崎冬生
災害のガラパゴス化や冬の能登
車錆び家屋倒壊 能登厳冬
輪島朝市道も分からず焦げし街
31 抽象画になる 川崎千鶴子
咲きつくし行きどころ無き枝垂れ梅
梅花にひたひた唇濡れてゆく
命の果てがふいに見ゆ日永かな
33 働くひと 山本まさゆき
東大の赤門くぐる子猫かな
ひらがなや蝶一頭の持つ記憶
ひとときの星座を結び桜の実
34 『憶』へ、『黒い星』へ 山本掌
記憶とううすずみいろのさざなみ
憶は刃憶は陽だまりかげろえる
ゆらぎては揺らぎては遠く春雷
36 日常 清水恵子
冴え返る背中に当たる聴診器
牡丹雪すっくと黒き松本城
空耳の気配を探す木の芽時
《これまでの受賞者》
■第1回(2019年)
本賞:すずき穂波「藁塚」
奨励賞:望月士郎「むかししかし」
特別賞:植田郁一「褌」
■第2回(2020年)
本賞:三枝みずほ「あかるい雨」
奨励賞:小西瞬夏「ことばのをわり」
奨励賞:森由美子「万愚節」
■第3回(2021年)
本賞:大沢輝一「寒落暉」奨励賞:河田清峰「笈日記」
奨励賞:三好つや子「力水」
■第4回(2022年)
本賞:望月士郎「ポスト・ヒロシマ」
奨励賞:ナカムラ薫「砂の星」
奨励賞:三浦静佳「鄙の鼓動」
■第5回(2023年)
本賞:佐々木宏「渋い柿」
奨励賞:小西瞬夏「十指」
奨励賞:河西志帆「もずく天ぷら」